物語チェコの歴史―森と高原と古城の国 (中公新書)



物語チェコの歴史―森と高原と古城の国 (中公新書)
物語チェコの歴史―森と高原と古城の国 (中公新書)

ジャンル:歴史,日本史,西洋史,世界史
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東欧の歴史は面白い。

 未だに「チェコ=スロバキア」だと思っている方でも安心して読めるチェコの歴史。
 東欧世界はいまいち馴染みが薄い印象がある。学校教育でチェコといえば、歴史や地理ではなく、音楽の時間にスメタナを知ったぐらいである。
 しかし、本書を読めば、チェコ・プラハが豊かな歴史を持つ、欧州の一大中心地のひとつであり、第一次世界大戦の前まではウィーンと並ぶ欧州世界の一方の極といえる存在であったことがわかる。
 冒頭では東ローマ帝国と辺境国チェコとの交流から始まり、中世のチェコ・プラハの発展の歴史が語られる。ドイツの神聖ローマ帝国の東端にあたる大国として皇帝ルドルフ1世との抗争やカール4世の時代のプラハの繁栄など、この国が欧州の中心であった時代のくだりは、チェコに対する認識を改めさせられる。
 もうひとつはフスに代表される宗教戦争の舞台であったこと。東方正教とカトリックの狭間の地であったことから、この国が文化・宗教においても、ひとつの拠点であったことがうかがえる。我々が知っている東欧の小国と古都プラハという落ち着いた、有る意味地味な印象は、ごく最近のイメージであると言える。
マイナーながら豊で華麗な歩みを平易に語る

 チェコという国、はっきり言って我が国ではちょっとマイナー視されがちです。小生にとっては、「チェコスロヴァキア」という名前が耳に馴染んでおり、「チェコ」だけでは何かどうしても落ち着きの悪さを感じてしまいます。
 他方、最近では、歴史の香る文化的観光地としてプラハが注目を集めているのだとか。確かに、この街は神聖ローマ帝国の首府として欧州の文化的中心にも位置付けられたこともある中欧屈指の名城です。とは言え、この国、この街は、いったいどんな過去を秘めているのでしょうか。
 さて、本書ですが、中公新書の物語各国史シリーズの一冊として、中世初期以来のチェコの歩みを平易に説明するものです。この国の歴史、民族構成の多様性や周辺諸国との込み入った間柄などにより、ことのほか複雑なものがあるようですが、本書では、皇帝カレル4世やフスなどチェコ史に大きな足跡をのこした人物や、19世紀末の内国博覧会開催をめぐる民族間の紛糾といった具体的な事件に着目することにより、一般読者が興味をもって読み進められるよう工夫されています。チェコ史には全く土地勘のない小生にとって、出てくる人名・地名は殆ど馴染みのないものばかりですが、こうした趣向とテンポの良い語り口のおかげで、楽しく読むことができました。
 チェコ史に造詣の深い向きには些か飽き足らないものがあるかも知れませんが、各国の歴史を「物語」として語るという本シリーズの趣旨に照らせば、本書は出色の出来栄えと言えるのではないでしょうか。また、チェコの歴史それ自体についてのみならず、広く中欧全体の歩みを概括的に理解していくという観点からも、然るべく参考になる本だと思います。
人物から中欧史を見る

筆者の苦労の跡がうかがわれる本です。
境界が曖昧であったり、主従関係も複雑な中欧の歴史を
人物(国王、聖職者、修道女、町人など)を通して
よくまとめてあると思います。
新書なので仕方ないのかもしれませんが注文をつければ、
中世・近世のナショナリズムと近代のナショナリズムの違いを
もっと突っ込んでくれたらと思いました。
つまり、ボヘミア王国に対する愛国心は同時にハプスブルク帝国
に対する愛国心をあらわすなど、今日のナショナリズムの概念とは
若干のズレがあるということです。
それでも中欧・チェコとはどんなところなのかといった
有益な情報を提供してくれる本でもあります。
主に人物を通して見たチェコ社会の歴史に関する一試論

 1959年生まれのチェコ前近代史研究者が、従来の民族史観に疑問を呈しつつ、2006年に刊行した「いわゆるチェコの通史とは少し違った」「一つの試論」。著者は上記の視点から、「何を軸にしてこの国の歴史を始まりから現代までたどればよいのだろうか」と自問し、制度よりも現実に生きた人々の姿を見るために、「一つの試みとして、時代ごとにその特徴をよく映し出していると思われる人物を中心にとりあげることで」「なるべくこの国の社会全体を視野に収め、その変化を追いながら、一つの流れとして歴史を描」こうとする。そのため、重要な人物や事件であっても、その扱いが小さい場合があるという。かくして、伝道者キュリロスとメトディオスを通してモラヴィア王国の置かれた9世紀頃の国際情勢が、王女(後世に列聖)アネシュカを通じて13世紀チェコ王国の政治・宗教が、皇帝カレル4世を通じて14世紀の帝国・「王冠諸邦」の都プラハが、教会改革者フスを通じて15世紀初頭頃の政治と宗教が、モラヴィア大貴族ペルンシュテイン一族を通じて15?16世紀頃の貴族のあり方が、プラハの出版業者イジー・メラントリフを通じて16世紀の政治・宗教・市民生活が、17世紀プラハ大学の管轄権争いを通じてカトリック内部の亀裂が、モーツァルトへの熱狂を通じて18世紀の啓蒙主義と市民文化が、1891年のチェコ内国博覧会を通じて19世紀の民族主義化が、そして最後にスロヴァキア人、ドイツ人、ユダヤ人を通じて20世紀チェコの激動と民族構成の変化が論じられる。著者自身によれば、近現代史は断片的にしか扱えず、また話が殆どプラハに集中してしまい、多彩な歴史の入り口程度しか扱い得ていないという評価になる。確かに本書の方法の是非については議論もあるだろうが、この通史問題の難しさを考える上でも、少なくとも一つの自覚的な試論として興味深い。
                
複雑なチェコ史を面白く

「チェコの通史を追うのは複雑なので、人物・事件を元に歴史をたどっていく」という著者の切り口は十分、成功しているだろう(もちろん、「新書の読者向け」という意味だが)。
実際、編年的にチェコの歴史をたどろうとするとかなり複雑怪奇になってしまうと思われるが、人物・事件をたどることで、話に一本筋が通ることになり、読みやすく理解しやすい。
まぁ、それでもよくわからなくなるくらい、チェコ史(というより、当時の中欧の歴史)はわかりにくいのだが・・・。

プラハは最近、観光地として人気急上昇だが、本書を読んでから行くことで旅が楽しくなることは請け合い。




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